贋作師

Ali Project( アリプロジェクト ) 贋作師歌詞
1.贋作師

作詞:宝野アリカ
作曲:片倉三起也

乳白のカンヴァスで
架空の花が浴びる
陽光は偽物かい?

遮断する瞼から
向こうが現実なら
闇の中の君は何

みんな思う
ホントの自分は
どこにいるのかって

曇ったその目を
抉じ開けてやろう
天賦の腕に祝された
逸品の贋作で

美よりも勝る真正などない
手を尽くされた幻惑と
凡庸な慰みと
罪深きはどっち

さあ見極めよ
君が本当の
君ならば

時を経た 汚れ 傷
熟練と狡猾で
人生さえ模造する

だれも願う
この世の真実を悟りたい
なんて

腐った耳へと
撃ち込んでやろう
麗しの声に包んだ
呪詛の言葉たちを

偽善に勝る悪こそが善と
地獄の沙汰は金次第
審判は下されず
神にも裁けない

さあ騙されよ
いま純然な恍悦に

不随の魂を
震わせてやろう
権威をも翻させる
完璧な贋作で

美に背かれた真理などいらぬ
曝かれてゆく現象と
崩れる本質と
待ち受けるのはどっち

さあ凌駕せよ
君が本物(ほんとう)の
君となり


2.ALICE同罪イノセント

作詞:宝野アリカ
作曲:片倉三起也

罪なき罪なの
赦してくださる
わたしの罪名(なまえ) Innocence

ハートの女王も
手出しはできない
誰にも首を刎ねられない

蔦薔薇に囲まれた
庭の中で
絹の服 繻子の沓
暮らしてたの

ママは言う
いつまでも綺麗なまま
何ひとつ汚さないで
いい子でおいで

だけどある朝 裸足になった
湿った土を 踏んでみた
開かれてく森

道なき道へと
向かって行くのよ
恐れはときめきなの

知ってて陥ちるわ
兎の穴へと
アリスの後を追いかけるの

少女は誰でも甘美な罰を
受けるために生きてる

天蓋の寝台に
下りるレエス
白い胸 抱きしめて
眠ってたの

パパは言う
お願いだ 可愛いまま
どこひとつ傷付けずに
大きくおなり

だけどある晩 裸になった
火照った肌を 刺してゆく
月の青い爪

影なき影へと
両手を伸ばすの
痛みが真実でしょ

鏡の国では
すべてがあべこべ
泣いてばかりのもうひとりの
醜いわたしは
粉々に砕いて殺してあげるわ

罪なき罪なの
赦してくださる
わたしの主文 Innocent

ジャックの騎士も
相手にならない
誰にも鎖つなげないわ

道なき道へと
向かって行くのよ
少しも怖くはない

知ってて落ちるわ
兎の穴へと
アリスの後を追いかけるの

少女は誰でも無垢という
美しい悪を持ってる


3.蓮華幽恋

作詞:宝野アリカ
作曲:片倉三起也

夜気を浸す 蓮の池に
月は傾れ 留まる

生まれてきて 今初めて
静寂という 無を知ったの

あなたの首で
やさしく舞った
この指は
心から生えて咲く花

溢れる水も
泥濘るむ泥も
混じり合い引き合って
光を渡す

けれどみんな
涸れてゆくのなら
そこはふたりが
生きる場処では
ないでしょう

わたしにはもう
石畳を踏む跫音さえない

聞こえるのは 笑うような
碧いつぼみ 開いた音

あなたの肩を
抱き掻き抱く
この腕は
鞘のない生身の白刃

恋しい人よ
その首の根に
刻み込む 傷の痕
蓮華の刺青

たとえ来る世
消えず残っても
思い出さずに
見つけてください
わたしを

あなたの上に
頽れ燃える
この骨は
埋もれて空を見ぬ茎

愛しい人よ
目覚める間
紅炎の夢を視る
散華の子宮

きっと来る世
出逢えたときには
思い出すでしょう

あなた次はその腕で
殺めてください
わたしを


4.真偽贋者遊覧会

作詞:宝野アリカ
作曲:片倉三起也

夜の夢こそマコトは 嘘
夢見ることこそ 現

色を一つ差して引いて
もう違いがわからない
ここが何処かさえも曖昧な

屋根の下
床の上
見つからない人魚のよう
人が抱く幻想は
騙し合って作られた剥製
愛でようか
壊そうか
魔術師(ウィザード)の声で歌い
手品師(マジシャン)の手で持てなす
贋作師(フェイカー)の目で見つめて
詐欺師(ライアー)の舌で語る
いっそどうぞ
こころゆくまで
騙し絵(トロンプルイユ)を

仮面剥いだ貌が同じ
もう誰だかわからない
ありのままがいちばん恐ろしい
隠しても
曝しても
超現実主義(シュルレアリスム) 快楽
抽象表現主義(アンフォルメル)の憂鬱
絶対抽象絵画(シュプレマティスム) 禁欲
前衛芸術(アヴァンギャルド)の爆発
枠の中を
抜けて先まで
逆さ絵(トリックアート)で

魔術師(ウィザード)の声で嗤い
手品師(マジシャン)の手で盗んで
贋作師(フェイカー)の目で射ぬいて
詐欺師(ライアーの)舌で騙れ
いっそどうぞ
ココロひらいて
ずっとみんな
姿持たない
歪像画(アナモルフォーズ)ね
歪ム 歪ム 回レ


5.La verite

作詞:宝野アリカ
作曲:片倉三起也

誰もがひとりじゃ生きられないと言う
誰かといつでもつながっていたいと言う

だけどほんとは違う
自分ごまかす術

テレビは伝える知らなくていいnews
ラジオは聴かせる流されてゆくsongs

なにがそんな大事
抱えてるの たくさん

小さな嘘を君がつく
世界が少しひび割れる
カラの卵の膜のように
乾いた音が聞こえたって

この瞬間も君が好き
あり余ってる時間の中で
僕のただひとつの
それが真実だから

他人を愛せない人ねと君は言う
それなら自分を愛せてるの君は

いつも斜めばかり
前が見つからない

素直な僕など見せない
弱さで引き合ったなんて思わない
隠してる闇は
けして光と交差しない

たぐり寄せるように触れる
愛しい場処を初めて知る
君のただ一度の
いまを信じてみて

大きな嘘を誰かつく
世界は傾き揺れても
空は青いと子供は言い
そうして回りつづけるんだ

この瞬間も君が好き
まだ見ぬ風景の中さえ
僕のただ一度の
いまが真実なんだ


6.野性双生児

作詞:宝野アリカ
作曲:片倉三起也

赤い満月割る
高い絶壁の淵
墜ちる 私は誰
吠える狼の声

総毛立つ
身も心も

生きることを怯え
生まれ変わり損ねて
すでに行き場はなく
檻の向こうはどっち

愛される
獲物のように

闇を飼うその爪で
骨までも組み敷かれ
歓喜を歌うまで

彼の名はHYDE
怒りより強く
私を捕らえて
与える 力を

一人には返れない
なぜ声が上げられない
こんな苦しいのに

撓る苔(しもと)の刺
舐める傷口苦く
熔ける血濡れた牙
絶望喰むは本能

赦されぬ
罪人のように

恐れなど失って
零される涙だけ
口にして生きよう

彼の名はJEKYLL
祈りより深く
私を包んで
教える 弱さを

二人には戻れない
なぜ声が上げられない
こんな悲しいのに

彼の名はHYDE
誰より美しい
そして名をJEKYLL
何より愛おしい

どちらも私の
中に居る私
鍵のない檻の
鎖に繋がる

もう一人に返れない
もうどこにも本当の
私はいない


7.逝ける王女の肖像画

作詞:宝野アリカ
作曲:片倉三起也

わたしの短い生涯のうちで
何よりも光満ち深く輝いたのは
ひとりの画家の
二つの星の瞳でした
どれだけわたしはその光に
照らされたでしょう

薔薇色の絹を 着飾るわたしは
三才の早春

初めて出逢った 長い髪の画家は
手にくちづけた

泣きじゃくるたび あやすかのように
止まった絵筆 曲がる口髭

わたしは大人しく ひとり佇む
薄闇が降りるまで

五度目の冬は 銀色(ぎん)に包まれ
踏み出す再び 大きな絵の向こうへ

侍女らと共に ある日の午後が
幸福な永遠になる

夜空の紺色(ブルー)を 纏って澄ました
淑女の少女は 八つになって

それでも儚く狭い世界で
その目だけが 広い宇宙

二年が行きて 赤い衣裳(ドレス)の前で
画家は死んだ

人は知るでしょう
すべてのわたしを
あなたの絵の
中だけに


8.真夏の憂愁夫人

作詞:宝野アリカ
作曲:片倉三起也

バテンレースの日傘から
夏の影絵が 回り 落ち
白い首と 萌黄の帯に留まる

そっと振り返った母の
いつも泣いてるような目は
僕を抜けて
知らない誰かを遠く
見つめていた

傾く 陽炎

眩暈に歪む 蝉時雨坂
手を引かれて のぼってゆく
追われるように
逃げだすように
汗ばむ掌が痛かった

離れないで

本当に愛してるのは僕
母と同じことを言うんだね
白い首の後れ毛
掻き上げながら微笑む女(ひと)

零れる 追憶
明かり灯らぬ 黄昏の部屋
僕はあの日を思い出す
少年となり
腕を伸ばした
捉まえたいものは もう疾うに
失くしたのに

眩暈に続く 蝉時雨坂
僕はひとり のぼってゆく
追いつくように
逃げないように

背を向けた貴女は
誰だろう

こっち 向いて
届くよ あと少し


9.天譴と超克

作詞:宝野アリカ
作曲:片倉三起也

空を裂き走る閃光の矢は
天の放った慰みとなろう

瞬く瞼に
真実(ほんとう)の光景を
映さぬまま

交わされ流れる
哀れみと涙に
何が宿る

傷付いていない足
大地を駆けてゆく
差し伸べるための腕
まだ誰かへと届く

このみにくい世に生まれたことを
いつか残れる誇りとするため
己は己であり
群れの中でも
迷うことなかれ君
流れに逆らえども

人類(ひと)が現れる遥かなる過去
死んだ星の光がいま墜ちる
海山森と風と
共に目覚めた
言葉も歌も持たぬ
原始(はじまり)の時のように
恐れなき静か
美しい世界の黎明

合唱のように
唱えられる愛の
薄ら寒さ

人は誤った
生き物ではないと
言い切れるのか

守られるための盾
それだけでは足りず
殺戮のための武器
両方抱えている

このみにくい世で出逢えたことを
未来に向けた祈りとするなら
我らは我らであり
孤独の果ても
忘ることなかれ君
明日は遠くにあれど

空を裂き走る閃光の矢が
天の放った怒りとなろうと
闇を持たぬ宇宙の
その片隅で
めくるめく滅亡は
終わりの時ではなく
すべての最初(はじまり)
美しい世界の再来

このみにくい世に生まれたことを
いつか残れる誇りとするため
己は己であり
群れの中でも
迷うことなかれ君
流れに逆らえども

人類(ひと)が現れる遥かなる過去
死んだ星の光がいま墜ちる
海山森と風と
共に目覚めた
言葉も歌も持たぬ
原始(はじまり)の時のように
恐れなき静か
美しい世界の黎明


10.RED WALTZ

作詞:宝野アリカ
作曲:片倉三起也

蘭の華を愛でるように
あなたの舌が
呼びつづけた私の
名前は 偽りだったの

暗躍する影に
心を売った女
どんな命も草花のように
散らす冷たい指を持つの

たったひとつ
怖いものがある
この手を狂わせるは 恋
胸元 隠した毒
また一夜 躊躇わせ

何故あなたは 疑いもしない
優しい眼差しなの
だめ これ以上見つめないで
抱きしめて
ただふたり踊りましょう
私が黒い手套
静かに外すまで

汚れたこの街で
唯一美しい夜明け
輝くひかり受けて
生まれ変われたらいいのに

激動の時代は
人々の人生を
巻き込んでゆく
軋む歯車
止める事などできないのよ

もうひとつも
怖いものはない
この手が揺らぐのなら恋
恋した それが証し
靴元へ 落ちる小壜(びん)

もし平和という世の中なら
幸せ 巡らせてく愛
愛するだけの為に
生きられた
でも此処で踊りましょう
けして終わることない
最後のワルツを

いまあなたが
私の手を取り
指へと 嵌めるものは
赤 真っ赤な
朝焼けと同じ色の指輪なの?

ああどうして
気づいていたでしょ
強くて いけない人
だめ これ以上動けないわ
抱きとめて あと少し
この瞳が
あなたを映したまま
静かに閉じるまで